認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状」に分けられます。
中核症状とは、脳の細胞が障害されたり、脳の働きが低下したりすることによって直接的に起こる症状のことで、主な中核症状には以下のようなものがあります。
記憶障害とは、自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害で、時間の経過と共に症状が進行します。人は年を取れば誰でも物の覚えが悪くなったり物忘れが増えたりしますが、認知症では覚えること自体ができなくなります。そして症状が進行するにつれ、覚えていたことも忘れていきます。
見当識障害とは、自分が置かれている状況が把握できず、「いつ・どこ」といったことや、自分と他人との関係性が分からなくなる障害です。まず時間の認識が乏しくなり、今日の年月日や曜日、時間、季節感を間違えやすくなります。次に場所の認識が薄れ、行きつけのお店への道順が分からなくなる、出先から家に帰れず迷子になるといったことが起こります。さらに症状が進むと人を間違えることが増え、家族や近しい友人であっても認識できない場面が増えます。
物事の理解に時間がかかるようになり、適切な判断を下すことが困難になります。また複数のことが重なったり普段と異なる出来事が起きると、混乱してうまく処理できません。あいまいな表現が理解できない、目に見えないものが理解できない、善悪の判断ができないといった症状も見られます。
実行機能障害とは、物事を順序立てて、計画的かつ効率的に行動することが難しくなる症状です。例えば、食事の準備をする際、炊飯器でご飯を炊いている間にみそ汁やおかずを作るのが一般的な流れでしょう。しかし、実行機能障害があると、ご飯を炊いたりおかずを作ったりすること自体は可能でも、ご飯を炊きながら同時進行でおかずを作ることが難しくなります。 また、予想外の出来事に対して、他の手段を考えて適切な方法で対処できなくなるため、例えばいつも通る道が工事をしており通行できない場合に、どうしたら良いかがわからなくなってしまうといったこともあります。
周辺症状とは、認知症の症状のうち、中核症状を原因として二次的に起こるものをいいます。
別名、「行動・心理症状(BPSD)」とも呼ばれます。
周辺症状は「長年行ってきた家事が思うようにできなくなり、そのことに落ち込んでうつ状態になった」、
「見当識障害によって道順が分からなくなり、徘徊が頻繁に起こるようになった」といったように、中核症状に付随して発生します。
主な周辺症状には以下のようなものがあります。
認知症になると、状況判断ができなくなったり、自分の意思に反した言動をしてしまったりすることで、不安感や自尊心が低下しやすくなります。また、気分の落ち込み、意欲の低下、何事にも興味を示さなくなるなどの抑うつ症状が現れることがあります。意欲の低下や不眠、食欲が落ちたり何事にも興味を示さなくなることから、うつ病とも誤解されがちですが、認知症のBPSDとしてのうつ状態です。今まで趣味や外出を楽しんでいたのに、家に引きこもりがちになる・無関心になる場合が多いと言われています。
見当識障害や記憶障害などの中核症状出現の影響や、寂しさ、ストレスや不安などが重なって、絶えず歩き回る「徘徊」が起こることがあります。周囲の人が見ると、あてもなく歩いているように見えますが、本人にとっては理由があります。たとえば、過去に仕事をしていたときの記憶を思い出し、過去に住んでいた家に帰ろうとすることもあります。
妄想には、記憶障害によって物を盗まれたと思い込む「物盗られ妄想」、自分が老人ホームに置き去りにされたと思い込む「見捨てられ妄想」などがあります。また、認知症による幻覚症状は、存在しないものを実際にあるかのように感じる知覚の歪みです。代表的な例は「幻視」(実在しないものが見える)と「幻聴」(聞こえないものが聞こえる)です。たとえば、「知らない人が廊下にいる」、近くにいる人が「自分の悪口を言っている」といった内容を言葉にします。
認知症の方における暴力や暴言は、不満や漠然とした不安、自分の思いが伝わらずに生じる苛立ちなどが原因で起こることがあります。認知症の診断に対する受け入れがたい感情や、自尊心を守るための自衛行動がその背景にあります。たとえば、「病院に行きたくない」という反発は、認知症であることを認めたくない意思の表れの可能性があります。
認知症が疑われる症状が現れても、「年のせいだから仕方ない」「もともとの性格だから…」と症状を見過ごし、
早期の段階で病院を受診する患者さんは決して多くありません。
しかし他の病気と同様に、認知症も早期発見・早期治療が非常に重要です。
「もしかして認知症?」と思うことがあったら、できるだけ早めに専門医療機関を受診しましょう。
認知症は進行性の疾患ですが、早期に診断されることで、治療や適切な介護を開始し、症状の進行を遅らせることが可能です。
早期発見により、患者さんとそのご家族が将来の生活について計画を立てることができ、適切な支援を受けることで生活の質が向上します。
脳神経細胞がまだ多く残っている段階での治療は、症状の進行をより効果的に遅らせることができます。
早期に認知症の兆候を発見し対応することで、ご家族の精神的・身体的負担を軽減することができます。
認知症の初期症状が見られた場合、まず本人の状態や心情に寄り添い、共感を示すことが重要です。認知症を患うと、以前よりも物事を上手く行うことが難しくなってしまいます。
しかし認知症の初期では、その事を本人は理解しています。 「以前の様に上手くできない」と感じていますが、「それを言い出すのは恥ずかしい」「これは年だからしょうがない」「家族の手を煩わせるのではないか」「テレビの認知症特集のような、あんな姿は見せたくない」などと考えています。
ですが、心のどこかでは「助けて欲しい」と思っており、さりげない気遣いや手助けを望んでいるのです。家族など身近の人に失敗などを怒られることが続けば、不安感や恐怖感などから強いストレスがかかり、精神的に不安定になります。 そうなると、すぐ怒ったり、夜に落ち着きがなくなったり、幻覚・幻聴や妄想などが出現します。
本人が安心して落ち着ける場や雰囲気をつくり、ストレスをかけないよう心がけるだけで、認知症症状や問題行動などを和らげることができる可能性があります。
本人を驚かせない、急がせない、自尊心を傷つけないという「3つのない」を心がけるようにしましょう。
本人は物忘れをした自覚がないため、忘れていることを指摘したり問いただすことなく、忘れている内容を正確に教えるようにしましょう。日常的にカレンダーやメモ帳を活用し、重要な予定や情報を書き留め、見える場所に貼っておくとよいでしょう。
忍耐強く優しく対応することが重要です。話の内容が繰り返される場合には、話題をそらして本人の関心を別の事柄に向けることも効果的です。
予定がある日は、その時間や準備の予定を早い段階で本人に伝え、一緒に準備をするようにしましょう。目につきやすい場所にカレンダーを貼ってその日の予定を時間単位で記載したり、時計を見えやすい位置に設置しておくことをおすすめします。
対立を避け、落ち着いた声で話すことが効果的です。安心できる環境を提供し、必要であれば専門家に相談することも重要です。
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